気に入った店には店主に忘れられない程度に通っている。
毎日通ってもそれは、いつもの客で「常連」ではない。
でも、俺は伊那谷に常連と認めてもらえる店はない。
それは、まあいずれ、その内、ゆくゆくだな。
讀賣新聞の記事
妻の看病に専念、「居酒屋兆治」惜しまれ閉店
作家、山口瞳さんの小説「居酒屋兆治」のモデルとなった東京都国立市のモツ焼き店「文蔵」がこの夏、ひっそりと店を閉じた。
脱サラした店主が妻と2人で切り盛りし、勤め帰りのサラリーマンや地元商店主らに31年間にわたり、親しまれてきたが、妻が病に倒れ、看病のためやむなく決意したという。
店主の八木方敏(まさとし)さん(69)がサラリーマン生活を辞め、妻のかおるさん(64)と店を開いたのは1975年。
10人が座ればいっぱいになるカウンターがあるだけのこぢんまりとした店で、方敏さんは、1日に2万円を売り上げると、後は勘定を付けず、客と一緒に飲み始めた。客も端数の釣りは、受け取らず、方敏さんが帰った客を追いかけて返すこともあった。
国立市に住んでいた山口さんも常連客の一人で、方敏さんの実直な人柄に引かれ、毎夜集まる常連客の会話や方敏さんとのやり取りを、「居酒屋兆治」に書き上げた。小説は83年、高倉健さん主演で、映画化もされた。
山口さんは、全国のお気に入りの店を紹介した著書「行きつけの店」で、「そこは町の誰もが気軽に遊びに行ける集会所のようになっている。そこへ行けば会いたいと思っている町の誰彼に会うことができる」と店の雰囲気を紹介している。
しかし、かおるさんが病気で倒れたため、今年1月から休業。方敏さんは8月初め、看病に専念することを決めた。
方敏さんは「自分一人でも店を続けようと思っていたが、やっぱり二人じゃないと無理。もうけよりも、食べていければいいという考えでやってきたのが、多くの人に親しんでいただいた理由だと思う」と寂しそうに話す。
店には「名残惜しくは存じます」と手書きの紙が張られただけで、二度と暖簾(のれん)がかけられることはない。