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[慢性アルコール筋症] 酒と筋力トレーニング(健康体力NEWS) [急性アルコール筋症]

 この原稿を書いている今は,桜が満開です。週末にはあちこちで酒宴が催されることでしょう。花と酒なくしては,おそらく人生味気なくなってしまうでしょうし,日頃トレーニングとダイエットに取り組んでいる諸氏も,「酒は別物」と決めているかもしれません。さまざまなスポーツの名選手にも,酒にまつわる逸話がつきものです。私自身はあまり酒をたしなむ方ではありませんが,付き合いのあるトップビルダーやトップ選手には,「ザル」のような酒豪も多いように思います。そこで今回は,酒とトレーニングの関係について考えてみましょう。

■酒は健康によいか?

 洋の東西を問わず,酒は太古の昔から文化の必需品となってきました。こうした背景もあり,喫煙が健康の大敵とされているのに対し,飲酒は比較的大目に見られてきた傾向があります。ひとくちに酒といっても,純粋なアルコールに近いものから,薬効のある成分を含む「薬用酒」までさまざまですが,その共通した特徴は,多かれ少なかれアルコール(エタノール)を含むということです。実験室では,組織や細胞を「固定」する,すなわち,形態を保存したまますばやく殺すために70%アルコールをよく用います。このように,アルコールには強い細胞毒性がありますので,飲酒などにより低濃度のアルコールが体内を循環すると,神経系などに急性の変化をもたらし,また解毒中枢である肝臓に慢性の変化をもたらすことになります。一方,適度の飲酒であれば,逆に健康によいとする報告もあります。Liao ら(2000)は,アメリカ人男女(40歳以上,約4万人)を6年間追跡調査し,1日1回飲酒する人の方が,飲酒しない人に比べて死亡率が低かったと報告しています。その理由については不明ですが,少量のアルコールが,血小板の機能やフィブリノーゲンの生成などを低下させることにより,動脈硬化のリスクを低減するためと考えられています。また,フランス人では,ワインの摂取量と虚血性心疾患による死亡率が負の相関を示します。これは,「フレンチパラドックス」として知られ,赤ワインに含まれるポリフェノールが強い抗酸化作用をもつためと解釈されています。

■大酒は即座に筋を破壊する

 上記はあくまでも少量のアルコールの話しですので,安心はできません。実は,古くから,痛飲がたちまち筋を破壊することが知られていて,「急性アルコール筋症(ミオパチー)」と呼ばれています。この場合,筋力低下とともに,筋痛,血中へのミオグロビンの溶出,筋線維(特に速筋線維)の部分的壊死などが起こると報告されています(Langら,2001)。特に飲酒にまだ慣れていない若い頃,痛飲後に著しく筋力が低下したという経験をお持ちの方も多いかもしれません。心筋でも同様のことが起こるとされています。はげしいトレーニングによっても筋線維の微小な損傷が一時的に起こり,この場合には修復機構の活性化によって筋がさらに強化されると考えられます。しかし,アルコールによる筋症の場合には,筋のタンパク合成自体が著しく低下してしまうため,トレーニングと同様の効果(超回復効果)は期待できません。

■毎日の酒も筋を破壊する

 酒を長期にわたって常飲した場合はどうでしょうか。この場合には,次第に筋力が低下し,筋が萎縮するという症状が現れることが知られていて,「慢性アルコール筋症」と呼ぶことができます。筋力の低下は,それまでの総アルコール摂取量にきれいに比例するようです(Kiesslingら,1975)。実際,アルコール中毒患者はやせていて,筋力がきわめて低いのが一般的です。この場合,一回の飲酒による筋ダメージというよりは,成長ホルモンやインスリン様成長因子(IGF-I)の分泌低下が主要因となると考えられています。Langら(2001)は,ラットにアルコールを含む餌を16週間与え続けたところ,血中 IGF-I 濃度と骨格筋のタンパク合成量がともに約40%低下したと報告しています。

■アルコールの代謝との関連

 摂取したアルコールは,肝臓でアルコール脱水素酵素によって酢酸とアセトアルデヒドに分解されます。上記の急性および慢性の筋症は,これらの分解産物が原因ではなく,アルコールそのものが原因であることが確かめられています。アルコール脱水素酵素の活性は遺伝の影響を受けていて,日本人は欧米人に比べ低活性型が圧倒的に多く,そのために酒に弱い人が多いとされています。したがって,やはり「酒に強くない」と自認される方ほど要注意といえます。

■どれくらいが適量か?

 急性,慢性の筋症ともに,アルコールの摂取量を減らせば,回復に向かいます。それでは,毎日楽しんでも筋に悪影響を与えず,健康にもよい適量はどのくらいでしょうか。欧米の研究では,1日あたりエタノール60g 相当とされています。ビールでは1日約1.2 l (2本),ウイスキーでは約 150 ml(ボトル1/5)くらいでしょう。ただし,これは「弱くない人」のための基準で,日本人では,一般にこの半分程度とされています。左党には少々悲しい数字かも知れませんが,サプリメントに払う注意を,ほんの少し酒にも払ってみてはいかがでしょう。

http://www.kentai.co.jp/column/physiology/152.html

※ 2009/4/10、これ石井直方先生(東京大学大学院教授)の記事だったのだけど、リンク先に記事がなくなってるね。

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テーマの著者 Anders Norén